株式を保有している公益法人は、当然、株主総会での議決権という株主権の行使が可能です。そして、株主権の行使に関して法令上の制限規定がありません。しかし、事実上は公益性維持の観点から制約があります。
特に議決権の行使については、公益目的と無関係な行動や、特定企業の利益保護に偏った判断は「特定の者の利益供与」とみなされる可能性があります(認定法第2条第2項)ので、注意が必要です。
議決権行使のOK/NG例
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区分 |
具体例 |
評価 |
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OK |
資産保全や公益目的事業継続のための合理的な議案賛成 |
公益性維持に資する |
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OK |
ESG改善やガバナンス強化への賛成 |
社会的責任と整合 |
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NG |
関係者の人的つながりだけを理由に賛成・反対 |
利益供与の疑い |
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NG |
関係企業の経営陣保護や取引維持のためだけの行使 |
公益性喪失の懸念 |
実務的には、議決権行使方針を事前に策定し、記録を残すことが望ましいとされています。利益相反が疑われる場合には棄権も有効な選択肢です。
特定の株式会社が母体となって設立された公益法人が数多くあります。このような公益法人では悩ましい問題が生じることがあります。
例えば、公益法人Aの設立母体の株式会社Bにて経営紛争(非上場化の判断や、大規模な再編)が生じました。賛成派反対派が入り乱れて、委任状争奪戦が繰り広げられています。株式会社の創業者の一族や現経営陣に繋がりがある公益法人の理事Cは、株式会社Bとの人的関係に基づき、関係者に有利になるような議決権の行使ができます。
しかし、こういったことは避けなければなりません。
ルールの制定
上記2のような出来事が生じた場合に備えて、議決権行使に関して一定のルールを設けておくべきです。公益認定法や内閣府ガイドラインの趣旨に沿い、ルールの例を以下にまとめています。
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株主権行使規定 第1条(目的) 本規定は、当法人が保有する株式その他の有価証券に係る株主権の行使について、公益目的の維持及び利益相反の防止を図り、かつ資産の適正な管理運用を確保することを目的とする。 第2条(基本方針) 株主権の行使は、公益目的事業の推進及び当法人の資産保全の観点から合理的かつ中立的に行う。 1 特定の者(会社、役員、社員等)の利益を不当に図る行為を目的としてはならない。 2 議決権の行使は、公益認定法などの法令に従い、当法人が営利法人を実質的に支配することとなる状態を回避する。 第3条(議決権行使の判断基準) 1 議決権行使は、以下のいずれかに該当する場合に行う。 (1) 公益目的事業の継続・発展に資する場合 2 前項に該当しない場合、または利益相反の懸念がある場合は、原則として棄権する。 第4条(利益相反) 1 当法人の役員又は職員、又はその近親者が関与する企業に関する議決権行使は、理事会に事前に報告 し、その承認を得なければならない。 2 前項の場合、当該議決に関与する理事は議決権を行使しない。 第5条(議決権行使の手続) 1 議決権行使の是非については、理事会で付議する。 2 理事会で承認された議決権行使方針に従い、代表理事が議決権を行使する。 3 緊急を要する場合は、代表理事が臨時に判断し、次回理事会に報告する。 |
この中で特に重要な規定は第4条(利益相反)です。議決権行使対象の株式会社の関係者は議論の場から排除し、公平中立な理事間で検討を進めるべきでしょう。